「自立」とは

あなたの考える、「自立」の意味を教えて下さい。
 この問いに対して多くの方は、「漢字から見ても、自分で立つと書くので、自分で何でもできること。」と答えられるのではないでしょうか。

 「自立」と言う言葉を辞書で調べてみました。大辞林第三版によると「他の助けや支配なしに自分一人の力だけで物事を行うこと。ひとりだち。独立。」と記載されています。また、デジタル大辞泉によると、「他への従属から離れて独り立ちすること。他からの支配や助力を受けずに、存在すること。」とあります。

 この2つの辞書の中で私は、「支配」「従属」という言葉がとても気になりますが、気になりませんか。

 障がいを持つ方の法律策定の流れから詮索すると、少し分かることがあります。今の法律名は、「障害者総合支援法」ですが、以前の名称は「障害者自立支援法」でした。しかし、この法律は、障がいを持つ方の法律でありながら、障がいを持つ当事者の方が、法律策定の担当者として採用されていないばかりか、当事者の方々の声も聴かずに、厚労省や政府関係者の考え方に基づいて策定された法律でした。
 そして、この法律の中では、国は税金を使って支援をしてあげるのだから、支援をしてもらう障害者自身も、この支援で発生する費用の1割を負担して下さいという「応益負担」を盛り込みました。(もっと以前の法律では応益負担はありませんでした。)

 もしあなた自身が、障がいを持つ当事者だったとしたら、この国の一連の流れをどう思われますか?
 
 平成17年10月31日の「障害者自立支援法」が国会で可決された日からちょうど3年目にあたる平成20年10月31日に、全国8か所の地方裁判所で、障害者自立支援法が導入した「応益負担」は、憲法の定める「法の下の平等(憲法第14条)」に反し、「生存権(憲法第25条)」を侵害し、「個人の尊厳(憲法第13条)」を毀損する等として、29名の障がいを持つ方と障がいを持つ親の方1名の、合わせて30名の方が裁判所に対して憲法訴訟を提起し、その後も多くの障がいを持つ方々が、次々に訴訟をおこしました。

 その結果、国は平成22年1月7日に、原告団に対して、今後の障害福祉施策を、障がいのある当事者が、社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くすことを約束しました。また、和解にあたり、今後の新たな障害者制度全般の改革のため、障がいを持つ当事者の方を中心とした「障がい者制度改革推進本部」を速やかに設置し、そこにおいて新たな総合的福祉制度を策定することも約束したのです。そして平成25年に法律の改正に至ったのでした。

 ではもう一つ、あなた自身が、発達に障がいを持つ子どもの、親の立場として考えて見て下さい。

 現代社会は、効率を上げてスピードが求められることが多くなり、その流れは、学校教育の中にもおよびました。国は、「ゆとり教育」をやめて、「偏差値(エリート)教育」に転換したのでした。
 こうした環境下の中で、親の立場としては、障がいを持つわが子にとって、出来ないことや、苦手なことはマイナスになり、大人になった時に困るので、障がいを持たない子(普通の子)に近づけなければ、幸せに成れない。と考えてしまうのではないでしょうか。

 子どもを愛するがゆえに、子どものため良かれと思っての行動であっても、当事者である子どもにとっては、どんどん追い込まれていくこともあるのです。この関係性を、文字で言い表すのであれば、それはまさに「支配」や「従属」などの言葉が当てはまることになってしまうのです。
 障害者自立生活支援センターの方から、自立観について『自分のことは、自分で出来るようになる』という考え方から、『自分のことは、自分で決める』という考え方への転換をはかって来た。とお聴きしたことがあります。

 ユニバーサル社会を考えて行く中で、あなたにとっての「自立」とは何かと言うことを、もう一度考えてみる切っ掛けにしていただけば幸いです。

代表取締役  朝尾 浩康